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横浜地方裁判所 昭和54年(行ウ)5号 判決

川崎市川崎区京町二丁目一五番一〇号

原告

株式会社 八商

(旧商号・横浜商事株式会社)

右代表者代表取締役

梅山信太郎

右訴訟代理人弁護士

島田種次

同市同区榎町三番一八号

被告

川崎南税務署長

池田宗昭

右指定代理人

小田機

鳴海悠祐

水庫信雄

富塚豊彦

山岸義幸

高木秀男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の法人税につき、昭和五一年六月三〇日付けでした。

(一) 昭和四八年四月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度についての更正のうち三億八一一二万二七四六円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(二) 昭和四九年二月一日から同年七月三一日までの事業年度についての更正のうち欠損金額を減額した五六五五万八六六一円の部分及び過少申告加算税賦課決定

(三) 昭和四九年八月一日から昭和五〇年一月三一日までの事業年度についての更正のうち欠損金額を減額した二一〇〇万〇三〇一円の部分

(四) 昭和五〇年二月一日から同年七月三一日までの事業年度についての更正のうち二一三八万〇九二四円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(五) 昭和五〇年八月一日から昭和五一年一月三一日までの事業年度についての更正のうち九七七万六五六四円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち三三万三二〇〇円を超える部分

は取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、法人税法一二二条の規定により青色申告を提出することについて所轄税務署長である被告から承認を受けている法人である。

2  原告の昭和四八年四月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度、同四九年二月一日から同年七月三一日までの事業年度、同四九年八月一日から昭和五〇年一月三一日までの事業年度、同五〇年二月一日から同年七月三一日までの事業年度、及び同五〇年八月一日から昭和五一年一月三一日までの事業年度(以下、右各事業年度をそれぞれ「昭和四九年一月期」、「昭和四九年七月期」、「昭和五〇年一月期」、「昭和五〇年七月期」及び「昭和五一年一月期」という。なお、各事業年度を一括して「本件各事業年度」ということがある。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対して被告のした更正、再更正(昭和四九年一月期のみ。以下同じ。)及び過少申告加税の賦課決定の経緯は、別表一、二記載のとおりである。

3  しかし、

(一) 右各更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち請求の趣旨記載部分は、支払利息を損金と認めず、所得を過大に認定した違法がある。

(二) 被告は、支払利息を支払つた事実が存在しないと主張するが、右各更正の更正通知書には法人税法一三〇条二項所定の理由として「下記の日付で支払われた利息は支払先が明らかでないので損金とは認められません」と附記しているのであるから、右各更正は理由が不備であつて手続的に違法である。

よつて本件各処分のうち、請求の趣旨記載部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、被告が、支払利息を支払つた事実が存在しないと主張していること及び更正通知書に理由として附記された内容は認め、その余の点は争う。

三  被告の主張

1  本件各事業年度の所得金額の計算根拠

原告の昭和四九年一月期分ないし昭和五一年一月期分法人税の所得金額及びその計算根拠は、次のとおりである。

(一) 昭和四九年一月期分

原告の昭和四九年一月期分の所得金額は三億八八八一万一六一六円であり、その内容は次表のとおりであつて、再更正後の所得金額三億八八八一万一五四六円はその範囲内であるから本件再更正は適法である。

〈省略〉

(1) 交際費否認額 五七万七三〇〇円

原告は、次表に記載した五七万七三〇〇円を贈答品等交際費として支出したものであるとして損金に算入していた。

しかしながら、被告が右金額五七万七三〇〇円について調査したところ贈答先は不明であり、その費途が明らかでないため損金を否認して所得金額に加算したものである。

〈省略〉

〈省略〉

(2) 支払利息否認額 七六八万八八〇〇円

別表三(一)記載の手形割引利息(以下単に「支払利息」ということがある。)の額七六八万八八〇〇円についてはその支払の事実がなく、当期の損金の額として認められないので所得金額に加算したものである。

(3) 未納事業税認容額

前期更正による増加所得金額五〇万七六六六円に対する未納事業税額を次の算式により算出し六万〇八四〇円を損金として認容したものである。

算式

〈省略〉

(二) 昭和四九年七月期分

〈省略〉

(△印は欠損金額であることを示す。以下同じ。)

(1) 支払利息否認額 五七四八万一二二一円

別表三(二)記載の支払利息の額五七四八万一二二一円についてはその支払の事実がなく、当期の損金の額として認められないので所得金額に加算したものである。

(2) 未納事業税認容額 九二万二五六〇円

前期再更正による増加所得金額七六八万八八〇〇円に対する未納事業税額を次の算式により算出し九二万二五六〇円を損金として認容したものである。

算式

〈省略〉

(三) 昭和五〇年一月期分

〈省略〉

(1) 支払利息否認額 二四九八万四八六七円

別表三(三)記載の支払利息の額二四九八万四八六七円については、その支払の事実がなく、当期の損金の額として認められないので所得金額に加算したものである。

(2) 受取配当金の益金不算入額の認容額 三九八万四五六六円

原告は、当期の受取配当等の金額三三一七万一二五〇円に対し、当期に支払う負債利子等の額を七四七八万三五二三円とし法人税法二三条の規定に基づき受取配当等の金額三三一七万一二五〇円を所得金額に加算した。

しかしながら、右当期に支払う負債利子等の額七四七八万三五二三円中には右(1)に述べたとおり当期の支払利子とは認められない金額二四九八万四八六七円が含まれているのでこれを差し引くと右当期に支払う負債利子等の額は四九七九万八六五六円となるため、前記規定により再計算を行つた結果三九八万四五六六円の受取配当等の益金不算入超過額が認められたので同額を所得金額から減算したものである。

(四) 昭和五〇年七月期分

〈省略〉

(1) 支払利息否認額 四七三二万二七六六円

別表三(四)記載の支払利息の額四七三二万二七六六円についてはその支払の事実がなく、当期の損金の額として認められないので所得金額に加算したものである。

(2) 繰越欠損金当期控除超過額 二一〇〇万〇三〇一円

原告は法人税法五七条の規定に基づき、昭和五〇年一月期分の欠損金として、一億三一八一万四九六八円を繰越欠損金の当期控除額として所得金額から控除して申告した。

しかしながら、昭和五〇年一月期分は前記(三)で述べたとおり更正され、当期に繰り越された欠損金額は一億一〇八一万四六六七円となつた。したがつて繰越欠損金の当期控除額は二一〇〇万〇三〇一円超過することになるので同額を所得金額に加算したものである。

(五) 昭和五一年一月期分

原告の昭和五一年一月期分の所得金額は二六六二万七八〇四円であり、その内容は次表のとおりであつて、更正の所得金額二六四三万八八六四円はその範囲内であるから本件更正は適法である。

〈省略〉

(1) 支払利息否認額 二五〇五万円

別表三(五)記載の支払利息の額二五〇五万円についてはその支払の事実がなく、当期の損金の額として認められないので所得金額に加算したものである。

(2) 有価証券売却損否認額 二九〇五万四五六九円

原告は、松竹株式会社の株券一二二万九〇〇〇株について、期末評価を行い、その評価損二九〇五万四五六九円を有価証券売却損として損金の額に算入していた。

しかしながら、右株券の時価は、期末の帳簿価額を上回り評価損は発生しないため、有価証券売却損の額二九〇五万四五六九円を所得金額に加算したものである。

(3) 貸倒引当金繰入超過額 四三万九八八八円

原告は、法人税法五二条の規定に基づき、貸倒引当金の当期繰入額として三二八万円を損金の額に算入していた。

しかしながら、右貸倒引当金の当期繰入額の計算の対象となる期末貸金の額二億二八四二万〇六七四円の中には期末貸金の額とは認められない額三一一九万〇六三〇円が含まれていたため、右の規定に基づき貸倒引当金の当期繰入額の再計算を行つた結果貸倒引当金の当期繰入額は二八四万〇一一二円となる。したがつて貸倒引当金の当期繰入額は四三万九八八八円超過するため、所得金額に加算したものである。

(4) 未納事業税認容額 八一九万八七六〇円

前記更正による増加所得金額六八三二万三〇六七円に対する未納事業税額を次の算式により算出し、八一九万八七六〇円を損金として所得金額から減算したものである。

算式

〈省略〉

2  本件各事業年度の過少申告加算税賦課決定の根拠

被告は、国税通則法六五条一項の規定に基づき、再更正等により納付すべき昭和四九年一月期の法人税額二八二万五七〇〇円、昭和四九年七月期の法人税額二〇七五万二七〇〇円、昭和五〇年七月期の法人税額二七三二万九二〇〇円及び昭和五一年一月期の法人税額一〇一五万五一〇〇円に一〇〇分の五の割合をそれぞれ乗じて、昭和四九年一月期一四万一二〇〇円(国税通則法一一八条三項、同法一一九条四項の規定に基づき、本税につき一〇〇〇円未満の端数及び附帯税につき一〇〇円未満の端数を切り捨てる。以下同じ。)、昭和四九年七月期一〇三万七六〇〇円、昭和五〇年七月期一三六万六四〇〇円及び昭和五一年一月期五〇万七七〇〇円相当の過少申告加算税を各賦課決定したものである。

3  支払利息を否認した理由

被告が否認した原告の昭和四九年一月期ないし(五)記載の支払利息の額については、以下に述べる事実等から、支払事実が明らかではなく、右支払利息の額の算出基礎となつたと認められる金融手形(以下「本件各手形」という。)についても、いかなる者に売却されたかその事実が不明であり、これらの事実に照らすと、右支払利息にかかる取引(第三者に対する売却)が真実行われたものとは到底認められないのである。

(一) 原告の総勘定元帳の支払利息勘定欄には、支払利息の額、その支払年月日及びその計算方法についての記載はあるが、当該支払利息の額の支払先が記載されていない。

(二) 被告の税務調査の過程で原告が提出した「手形売渡差額一覧表」に記載の本件手形の売渡先の住所及び氏名については、これにかかる該当者は右記載の住所地の一部がホテルの所在地であり、当該ホテルにも実在しないことが認められ、事実とは相違する架空のものである。

(三) 本件各手形の大部分は、原告が最終裏書人となり、三井銀行川崎支店又は川崎信用金庫のいずれかの原告名義の普通預金及び当座預金の各口座で取り立てられ、そして当該金額は同日又は翌日に現金で出金されている。

(四) 原告は、本件各手形の売却にかかる売却先及び当該支払利息の支払事実について明らかにせず、かつ、領収証その他本件各手形の売却に伴なう金銭の授受を裏付けるに足る何らの具体的資料の提出もしない。

4  本件各更正の手続上の適法性

被告は、本件各事業年度についての各更正(ただし、昭和四九年一月期については、当初の更正を除外して再更正のみを指す。以下、これらを「本件各更正」という。)を行うに当たり、被告係官の調査によつても前記被告の主張1記載の本件各事業年度における支払利息(以下「本件支払利息」という。)の支払先が明らかでなく、すなわち、本件においては本件支払利息にかかる取引が真実行われたものとは認められなかつたことから、「支払先が明らかでないので損金とは認められません。」と更正通知書に更正の理由を附記したものであり、右附記理由は、本件支払利息の額を支払つたことを前提にして支払先のみ明らかでないことを意味するのではなく、支払先が明らかでなく、したがつて、支払事実もないことを意味することは当然に理解し得るものである。

したがつて、被告の右附記理由は、本訴における被告の主張と基本的に同一であり、何らその処分の同一性を害していない。

仮に、本件各更正の附記理由が本訴における被告の主張と異なつており、これが理由の差替えに該当するとしても、更正処分取消訴訟において処分の実体的違法が争われているとき、審判の対象となるのは租税債務そのものの存否であり、それを根拠付ける事実関係につき原処分あるいはそれに続く不服審査手続の際と異なる主張をすることが一切妨げられるものではないから、右理由の差替えは許されてしかるべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)のうち、冒頭の主張は争い、(1)は認め、(2)は否認し、(3)は認める。

2  同1(二)のうち、(1)は否認し、(2)については、その前提となる前期再更正の適法性は争うが、(2)の計算課程そのものは認める。

3  同1(三)のうち、(1)は否認し、(2)については、その前提となる当期の支払利息が負債利子等に含まれないとの主張は争うが、(2)の計算課程そのものは認める。

4  同1(四)のうち、(1)は否認し、(2)については、その前提となる昭和五〇年一月期更正の適法拙は争うが、(2)の計算過程そのものは認める。

5  同1(五)のうち、冒頭の主張は争い、(1)は否認し、(2)、(3)は認め、(4)については、その前提となる前期更正の適法性は争うが、(4)の計算課程そのものは認める。

6  同2については、その前提となる本件各更正の適法性は争うが、過少申告加算税の計算課程そのものは認める。

7  同3のうち、冒頭の主張は争い、(一)は認め、(二)については、そのうち被告の税務調査の過程で原告か「手形売渡差額一覧表」を提出した事実のみを認め、(三)は認め、(四)については、そのうち原告が本件各手形の売却先を明らかにしなかつたこと及び領収証を提出していない事実のみを認め、右3のその余の事実は否認する。

8  同4の主張は争う。

五  被告の主張に対する原告の反論

1  本件支払利息について

(一) 支払利息の支払の有無に関する被告主張の当否

仮に被告主張の前記3(一)ないし(四)の各事実の全部が真実であるとしても、右被告主張事実は、要するに原告が本件支払利息の支払先(手形売却先)を明らかにしなかつたという一事に尽き、それ以外の意味をもつものではない。原告が利息の支払先を明らかにしなかつた事実が本件利息の支払事実につき疑いを持たれる原因の一であることは、これを認めるにやぶさかではない。しかし、右は本件利息の支払事実を否定し得るだけの積極的証拠とはなり得ない事実である。所得金額の確定上において、支払利息を否定するということは損金を否定することであり、そのためには原告の経理上損金として支出された資金が資産として社内に留保されている事実が立証されなければならないはずである。更に、支払利息を否定する前提条件として、本件手形の買受資金が原告内部で調達されている事実を立証しなければならないのである。

原告は青色申告の承認を受け創立以来関係法規に従つて所定の帳簿を備え付け、複式簿記の原則に従い整然とかつ明瞭に記録に基づいて決算を行い、確定申告をしているものであつて、右帳簿において単に支払利息の支払先について、その記載を欠いていたのみである。しかも、この帳簿については、被告は従来からの税務調査において、青色申告承認条件を満たす帳簿として、これを是認しているものであるところ、これら帳簿によれば、本件手形の買受資金は、自己資金によるのではなく、この手形を直ちに売却することによつて調達していたことは明瞭である。およそ青色申告制度は納税者に対し一定の帳簿書類の備付けを義務付ける反面、その帳簿を無視して更正されることのないよう納税者に保障をした制度であるから、その帳簿を否定し、原告が本件手形を満期日まで所有していたとして支払利息の支払を否定する更正をする場合には、特に右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示し処分の具体的根拠を明らかにしなければならないはずである。しかるに、前記被告の主張立証は要するに右元帳に支払先を記載していない事実と、原告において支払先を明らかにしない事実のみであつて、このような消極的事実によつては、右帳簿の記載を否定して、原告が巨額の自己資金を簿外で所有し、支払利息の架空支払をなしたとする具体的根拠とはなし得ないことは極めて明白である。

(二) 原告が支払先を明らかにしない点について

原告が支払先を明らかにしなかつたことは確かであるが、支払先を明らかにしないとは断言できない。原告は複式簿記の継続的記録を通じて手形売買事実とその資金関係を正確に記帳し、右取引に伴い必然的に生ずる割引料相当額の利息を支払つているのであるがら、その意味においては支払事実は右帳簿により実質的に明確となつており単に相手先のみを明らかにしなかつたというべきである。また、被告は、金銭の授受を裏付けるに足る何等の具体的資料の提出もないと主張するが、単なる領収証ないし計算書よりも右に述べた継続的記録の書類がより実質的には金銭授受を裏付けるに足る資料というべきである。結局被告の主張するところは、要するに手形の売却先を明らかにしなかつたということのみに限られると解されるのである。

(三) 本件支払利息の領収証等が存在しない点について

一般に、手形売却取引においては、通常手形額面金額から、右手形の支払期日までの割引料を差し引きした金額の支払を受け、同時に右手形を相手方に手交すれば、その取引は完了するものである。この場合割引料は別個に相手方に支払うことはないので、割引料の領収証等を相手方から交付を受けることはない。よつて、領収証の存在が当然の前提であるとすることはできない。また、原告においては手形の売買は取引が完了すると、その取引行為者から経理担当者に対し売買の事実が報告され、経理担当者は右の連絡を受け次第、振替伝票なのである。この伝票は、すべて、税務調査に際し調査担当者に呈示している。

(四) 本件各手形取引の実状及び原告が支払利息の支払先を明らかにできない理由

本件各手形は、原告が買い入れて第三者に売却したものであるが、これは振出人又は手形所持人であつた安宅産業株式会社、富国地所株式会社等が事業経営不振に陥り、正規の銀行融資が受けられない事情にあつたため、原告に融資の斡旋を依頼し、原告は右各社と第三者間の融資の仲介をなすに当たり、本件手形を買い受け第三者に売却する形式をとつたことによるものである。すなわち、原告は、買い入れた本件手形は、原則として即日、融資先である第三者に売り渡すことにより右各社と第三者間の融資の仲介をなしたものである。

原告が本件支払利息の支払先を明らかにできないのは、本件融資の仲介に際し、融資先の要請により融資先名を秘すことを条件として、その融資取引が実現された経緯によるものである。その必然的結果として本件手形の満期日における取立ても原告名義でこれをなさざるを得ないこととなつたものである。したがつて、右取立てによる資金は一応原告名義の預金口座に入金されたが即日払い戻されて本件融資先が取得しているのである。

手形金融において融資の秘匿を欲する手形取得者は裏書をなさず満期日において最終裏書人に手形を呈示して、その取立てを依頼することが通例である。この場合最終裏書人は自己の取引先金融機関にその取立てを依頼するのであるがその金融機関の手形取立事務の必然的結果として最終裏書人の預金口座に右取立資金が預入されることとなるのである。したがつて、満期日における最終裏書人が必ずしも右手形の所有者ではないのである。

(五) 「手形売渡差額一覧表」提出の経緯

被告係官戸田健ほか一名の原告に対する税務調査に際し、原告は当初から一貫して本件手形の売渡先については相手形との関係で明らかにできない旨を述べていた。本訴の対象となつている事業年度前にも同様の手形取引があり、従来から被告の税務調査においてその支払利息の損金算入は被告によつて是認されてきている経緯もあるので、原告の代理人である税理士安泰治は、被告の法人税第四部門統括国税調査官慶田穣(以下「慶田統括官」という。)に面接し、本件手形の売渡先を明らかにできない事情及び従来から税務調査において損金算入を是認されていた事情等を述べ従来どおりの措置を採られたい旨を陳情したところ、慶田統括官は陳情の趣旨を諒承し、事務処理上形式的書類の整備する必要があるので一応の一覧表を提出するよう指示があつた。すなわち売渡先については真実の記載がなくとも差し支えがないという諒解の下に支払手形ごとの支払利息明細表を提出することになつたのである。ところが、慶田統括官と安税理士間の右諒解事項が慶田統括官から戸田係官らに伝達されないまま戸田係官らによる右差額一覧表記載の売渡先確認調査が実施されるに至つた。安税理士は、戸田係官から右確認調査の結果を電話で連絡を受けたのであるが、その時はじめて慶田統括官との諒解事項が戸田係官に連絡されていない事実を知り、やむなく戸田係官に対し「差額一覧表は提出しないこととし破棄されたい」旨を申し入れたものである。

(六) 本件各手形保有に要する資金量について

被告は、本件手形を、満期日まで原告が所有していたと主張するが、仮に、被告主張のとおりだとすれば、原告がそのために必要とした簿外の資金量(ただし、手形金額)は、左のとおりとなる。

〈省略〉

〈省略〉

右表によれば昭和五〇年八月末には九億四千万余円の資金が必要であり、もし被告主張のように、原告が自己資金で本件手形を買い入れたとすれば、原告は右のように巨額の簿外資金を所有していたこととなる。このような巨額の簿外資金は一朝一夕で蓄積されるものでなはなく、仮に原告会社においてこの資金を所有したとすれば資本金に比較して異常に巨額な金額であつて、被告による過去数回にわたる税務調査において当然に発見されていたはずであり、今回の調査に際しても原告会社の内部記録を精査することにより何らかの端緒が発見されその実態が解明できたはずである。本件においては右資金が真実の手形所有者に支払われているからこそ、銀行調査ではその行方が発見できなかつたにすぎないものというべきである。要するに、本件手形を原告が満期日まで所有していたという被告の主張は、その具体的事実の立証に基づくものでなく単なる推測にすぎないものである。

2  本件各更正の理由附記の瑕疵について

(一) 本件各更正通知書に附記された更正理由は本件支払利息について「下記の日付で支払われた利息は支払先が明らかでないので損金とは認められません。」とされている。

右更正理由は「支払先が明らかでない利息は税法上損金とは認められない」という法律的判断を示したものと理解するのが極めて常識的な理解である。しかるに、被告は、「右理由附記は本件支払利息の額を支払つたことを前提として支払先のみ明らかでないことを意味するのではなく、支払先が明らかでなく、したがつて支払事実もないことを意味することは当然に理解し得るものである」と主張する。しかし、支払先が明らかでない事実と、支払事実がない事実とは本質的に異なる事実であり、両者間に同一性を認めることはできず、前記本件更正理由附記の文言の解釈につきいかなる類推解釈をもつてするも被告主張のとおり理解することは不可能であり、更に本件更正通知書の全記載事実を総合して判断するとしても右同様の結論となるのである。すなわち、本件更正通知書においては、被告が本訴において架空支払であるとする利息額が、翌期の利益積立金欄に表示されておらず(これは社外流出すなわち対外的に支払われたと判定されたことを意味する。)、また本件更正に対しては過少申告加算税が賦課されているにとどまり、重加算税が賦課されておらず更に青色申告の承認取消しの処分もなされていない事実が記載されているのである。もし、支払利息相当額が内部留保とされ、重加算税の賦課があり、青色申告承認取消しの処分がなされているとすれば、更正理由附記の文言の解釈に際しても、被告主張のように架空支払を連想する余地も皆無とはいえないであるが、前記の事情のもとにおいては更正理由附記の文言は前記のとおり理解されるのが当然である。

(二) 更正理由の附記は、納税者が当該更正処分について不服申立てをするか否かの判断に資するために法が要求する手続規定である。したがつて、附記の記述は通常の納税者の一般 識水準において理解さるべきものでなければならない。本件更正理由の附記を一般知識水準で理解する限り前旧のとおり「支払先が明らかでない利息は税法上損金とは認められない」という原処分庁の法律的判断を示したものと理解されるのである。これに対し被告の主張する真の更正理由は「架空支払」という事実関係であるとする。

このように本件更正理由附記の文言は、前述のとおり原処分庁たる被告の法律的判断を示したものと認められるが、被告の主張は事実の判断(支払事実の有無)である。したがつて、被告が支払利息の架空支払の事実が更正の理由であるにもかかわらず、前記の文言により更正理由を附記したとすれば、正に重要部分に対する意思と表示の不一致が存在するものというべく、本件各更正はその手続規定に反する重大な瑕疵を有するものである。

六  原告の反論に対する被告の認否及び再反論

1  原告の反論1(一)のうち、原告が本件支払利息の支払先を明らかにしなかつたこと、原告が青色申告提出について承認を受けていること、原告の帳簿には本件支払利息の支払先が記載されていなかつたことは認め、被告が従来からの税務調査において原告の帳簿を青色申告承認を満たすものとして是認したとの点は否認し、その余の主張は争う。

2  同1(二)の主張は争う。

3  同1(三)のうち、原告が、税務調査の過程において被告所部係官に振替伝票を呈示したこと自体は認め、その余の主張は争う。

通常の場合、手形売買の原始記録としては、手形振出人、裏書人、額面、手形番号、振出日、支払銀行、割引率、利息計算、取引当事者等の記載された「手形割引計算書」によつてまかない(原告には、「手形割引計算書」もない)、領収証がないものと思われるが、本件の手形売却に関する原告の仕訳によれば、売却先に対する割引料の支払として、通常の場合でない、つまり現金、未払金の勘定科目が見受けられるのであり、これらについては、その支払時に領収証の交付を受け、支払関係を明らかにする必要が生じるのであり、原告の反論は失当である(なお、被告は原告が、本件約束手形を売却したことを否認するものであり、したがつて、原告の右仕訳も架空のものであると主張するものであるが、右仕訳を前提としても領収証が必要となるのである。)

次に、原告は、「本件手形取引の原始記録は右振替伝票なのである」と反論しているが、原告の総勘定を検討しても、実際の取引日と記帳日(振替伝票・総勘定元帳)とのずれがうかがえるので、その間手形額面、割引日、支払期日、利率、利息額等細部を記憶し、口頭伝 することは困難であるから、振替伝票のほか何らかの原始記録が残つていてしかるべきであるし、また、手形売買については書替の必要性が生ずる場合があり、現に、原告は、振出人のため、手形不渡りを避けるべく一部書替を行つているのであり、原告が、真に本件約束手形を売却しているのなら、その売却先を把握し、記帳してしかるべきであるにもかかわらず、元帳、振替伝票にはもち論、その他売却先を記帳したものになく、この意味において、原告のいう振替伝票は、元帳の記載の信憑性を裏付けるに足りる原始記録とはなり得ないので、原告の右主張も失当というほかない。

4  同1(四)のうち、本件各手形の満期日における取立てが原告名義でなされたことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

5  同1(五)のうち、原告の代理人である税理士安泰治が慶田統括官と本件に関して面接したこと、右安税理士が原告に手形売渡差額一覧表を作成させて被告に所部の戸田係官らが確認調査を実施したこと、安税理士が戸田係官に対し右一覧表は提出しないこととしてほしい旨申し入れたことは認め、その余の事実は否認する。

なお、右一覧表提出の経緯は、以下のとおりである。

被告は、原告の本件各事業年度についての法人税確定申告書を審理したところ、原告の決算における支払利息が異常に多額であつたこと等から、原告の法人税について調査を行う必要があると認め、被告所部係官戸田健ほか一名にその調査を命じ同係官らは、原告の帳簿等に本件支払利息を支払つたとする相手先及びその取引内容等を明らかにする記帳が全くされていなかつたので、これらを明らかにするよう原告に要請したが、原告はこれに応じなかつた。

そこで、同係官らが、原告の取引銀行である三井銀行川崎支店及び川崎信用金庫小田支店に臨場し、右取引内容の調査をしたところ、本件手形については原告が最終裏書人となり、その満期日のころ原告の普通預金及び当座預金に取立入金されていたことが判明した。

右調査の結果、原告の主張する手形の売却先、及び利息の支払先を確認することができなかつたが、逆に、原告が右手形を売却せず自ら取立てをなし、したがつて、利息も支払つてないことを確認するに足る事実を把握することができた。

そこで、右戸田係官らは、原告に対し本件支払利息を支払つたと称する相手先等を明らかにするよう再三にわたり要求したところ、原告は前記手形売渡差額一覧表を提出し、本件手形は右手形売渡差額一覧表の売渡先住所、氏名欄記載の相手に売却し、その利息相当額を支払つたとして本件支払利息の損金算入を認めるよう申し立てたものである。

その結果、右戸田係官らは、相当の日時を費し右手形売渡差額一覧表に記載の売渡先について遂一調査を実施したが、手形売渡差額一覧表記載の相手先は、その記載の住所地の町名・番地が不明であつたり、当該住所地があつてもその住所には居住しなかつたり、更に住所地と称する当該ホテルの宿泊カード等には宿泊等の事実がなく、本件支払利息を支払つたとする相手先はいずれも確認することはできなかつたものである。

そこで、右戸田係官らが原告に対し、右調査結果について説明したところ、原告は、原告の代理人である税理士安泰治を通じ、右手形売渡差額一覧表について「提出をしなかつたことにしてくれ」と述べ、同一覧表記載の住所・氏名が虚偽のものであつて、右の者に対し本件支払利息を支払つていないことを申し立てたものである。

右のような経緯は、原告が本件支払利息を支払つていないことを示しているというべきである。

6  同1(六)の主張は争う。

まず、本件各手形は原告の帳簿上受取手形として記帳されていたものであるから、原告が現実に当該手形を取得する資金を保有していたものにほかならない。

また、次に、原告は、本件各手形の全部につき買受資金を要したとして資金量を計算しているが、本件各手形はその全部を現金で買入先に支払つているのではなく、いわゆる書替により単に手形の支払期日が延長されているにすぎないものが相当数あり、その書替による手形の取得には現実の資金は必要ないのであるから、本件各手形を各満期まで保有するのに必要な資金量は原告主張のように多額にはわたらないのである。

7  同2(一)のうち、本件各更正の更正理由として通知書に附記された内容、本件各更正の更正通知書には本件各支払利息の額が「翌期の積立金欄」に表示されていないこと及び本件につき重加算税賦課決定、青色申告承認取消処分がなされていないことは認め、その余の主張は争う。

同2(二)については、冒頭の更正理由附記制度の趣旨及び更正理由が通常の納税者の一般知識水準において理解されるものでなくてはならないとする一般論の部分を除き、その余の主張は争う。

なお、本件各更正の更正通知書の「翌期の積立金欄」に本件支払利息相当分が表示されていないこと、本件につき重加算税賦課決定、青色申告承認取消処分がなされていないことは、税務実務上、被告が本件支払利息が支払われたこと自体を認めたことを意味するわけでも、また本件支払利息相当分が原告の内部留保とはなつていないと判断したことを意味するわけでもない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件各処分の実体的適法性について

1  被告の主張1の各事実については、本件各事業年度における支払利息否認額及びこれを前提とする未納事業税認容額(昭和四九年七月期及び昭和五一年一月期)、受取配当金の益金不算入額の認容額(昭和五〇年一月期)、繰越欠損金当期控除超過額(昭和五〇年七月期)、の各存否を除き、いずれも当事者間に争いがない。

そして、右の争いのある事実のうち、手形割引利息の存否以外の他の事実は、各事業年度の原告主張の手形割引利息が損金と認められるか否かによつて計数上当然に結論が出るべきものである。(手形割引利息の存否以外の他の争いある事実については、その前提である手形割引利息の存否を別とすれば、これらについての被告主張の計算課程そのものについては当事者間に争いがない。)から、結局、本件各処分の実体的適法性についての争点は、本件各事業年度における手形割引利息が損金と認められるか否か、すなわち原告主張の手形売却の事実が存したか否かという点に帰着する。そこで、以下、この点について検討する。

2(一)  証人大山梅雄、同安泰治(第二回)、同戸田健、同慶田穣、同小林進の各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件各手形は、後述の書き替えられたと認められるものを除き、各満期のころ、原告の取引金融機関によつて取り立てられ、その取り立てられた金員は原告名義の預金口座に入金されている事実が認められ、これに反する証拠にない。

(二)  成立に争いのない甲第一号証の一ないし五、第二ないし第五号証の各一ないし四、第六、第七号証の各一、二、第八号証の一ないし三、第九、第一〇号証の各一、二、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし三、第一三ないし第一五号証の各一、二、乙第一二号証及び証人佐藤文治、同戸田健の各証言によれば、原告の総勘定元帳においては取引の相手方も記帳する取扱いになつているにもかかわらず、右元帳に記帳されている本件各手形割引利息についてのみその支払先(すなわち本件各手形の売却先)が記載されていない事実が認められ、これに反する証拠は存しない。

(三)  証人佐藤文治、同戸田健、同慶田穣、同小林進の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件各手形の売却取引についての領収証、あるいは手形割引計算書等の証票額が、経理処理のための振替伝票を除いては存在しない事実が認められる。

(四)  以上認定判示した事実によれば、特段の事情の認められない限り、本件各手形の最終所持人は原告であり、原告は本件各手形の満期のころ本件各手形の振出人等からその各手形金の支払を受けたものと推認するのが相当である。

3  そこで、右特段の事情が認められるか否か検討してみることとする。

証人大山梅雄は、原告の実質的経営者である大山梅雄が経営する原告の関連会社である富国地所株式会社、株式会社津上、東洋製鋼株式会社等においては、本件各事業年度ころ、金融がひつ迫し、銀行、信用金庫等の大規模金融機関に手形を割り引いてもらう等して金融を得ることが困難な事情が存したため、銀行等以外の街の小規模金融業者ないし金融ブローカー(以下「金融ブローカー等」という。)を利用する必要が生じたが、右各関連会社は、証券取引所に上場されている会社であり、かつ経営不振状態から再建途上にある会社も含まれていたため、右各関連会社が直接金融ブローカー等を利用すると対外的信用を害するので、右各関連会社に金融を得させる目的で、原告が一旦本件各手形を買い取つたうえで、原告において多数の金融ブローカー等に本件各手形を割り引いてもらつたもので、右のような金融ブローカー等は、簡易な事務所のみを設けて頻繁にその事務所の移動を繰り返し、偽名を用いる等、素性の明らかでない者が多く、本件各手形売却取引に最も深く関与していた右大山自身も右のような偽名とも本名ともつかない相手方については、その名前を知つている程度で、その身元、素性を詳しくは知らず、かつ相手方は素性を明らかにすることを嫌い、もし相手方の素性を尋ねたり調べたりすれば次回の取引に差し支えるのでそれを探究することもできず、そして本件のように金融ブローカー等から現金を受け取つてそれと引き換えにその者に手形を売却する取引の場合は相手方の信用ないし支払能力を問題とする必要はないので相手方の素性、支払能力等を調査する必要はなかつたし、更に、金融ブローカー等は、自分の素性が公になるのを避けるため、本件各手形金の取立てについても、手形を各満期の直前ころ原告方に持ち込み、原告の名で、原告の取引金融機関及びそこに開設している原告名義の預金口座を利用して手形金を取り立てた上、原告の右預金口座から現金を引き出してそれを受け取るという方法をとつていた旨供述する。

そこで、右供述の信用性について検討する。

一般に、手形を売却することについては、その手形金の支払が満期になされることが確実である場合はともかく、金融のひつ迫した会社が手形を振り出したり売却したりする場合には、将来手形の書替の必要が生じ、手形を書き替えるためには手形の売却先を把握しておく必要があること、前掲乙第一二号証及び証人安泰治(第一、二回)、同小林進の各証言によれば、本件各手形の大部分は実際に書き替えられていると認められるところ、手形を書き替えたにもかかわらず、相手方の名前(それも前記のとおり偽名かもしれないような名前)を知つている程度で、その素性も事務所の所在も定かでないような多数の金融ブローカー等に本件各手形を売却したとするのは不自然であること、右各関連会社の信用保持のため、右各関連会社から直接金融ブローカー等に売却せず、原告を通じて売却したというのであつたとしても、原告が右各会社と関連のある会社である以上、手形を売却する相手方の素性について何らの顧慮もしなければ、結果的には右各関連会社の信用保持につき不都合が生じ得る事態が発生すると推測し得ること、いずれも成立に争いのない乙第四号証、第九号証及び証人安泰治の証言(第一、二回)によれば、原告の代理人であつた税理士安泰治は、本件各処分についての審査請求手続において、東京国税不服審判所に対し、将来一定の時期が来て支えがなくなれば、本件各手形の売却先を明らかにすることができると述べている事実が認められること等に照らすと、証人大山梅雄の前記供述はその内容において到底合理的なものとはいえず、採用することができない。

4  また、原告の本件各事業年度についての総勘定元帳の一部である前掲甲第六、第七号証の各一、二、第八号証の一ないし三、第九、第一〇号証の各一、二には、本件各手形が手形割引利息を控除した価額で第三者に売却されたことを示す記載があるけれども、右記載は、前記2(一)ないし(四)に認定判示した各事実及び原告の実質的経営者である証人大山梅雄の信用性を検討するにつき認定判示した前記事実並びに右甲号各証の記載の信用性を裏付けるに足りる領収証等の原始資料の提出がないこと、その他弁論の全趣旨に照らして、採用することができない。

5  しかして、他に右特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、前記2(四)において判示した事実、すなわち本件各手形の最終所持人は原告であり、原告は本件各手形の満期ころ本件各手形の振出人等からその各手形金の支払を受けた事実が一応認められる。

なお、原告は、原告が本件各手形を第三者に売却せずに自ら満期まで保有しているためには巨額の資金を必要とするが、原告にはそのような資金はなく、右のようなことは有りえないと主張するけれども、前記認定のとおり本件各手形の大部分は書き替えられており、本件各手形を保有しておくのに原告が主張するほどの巨額の資金を要するものではないから、右主張は採用するに由ない。

6  原告は、本件各手形を第三者に売却して、そのつど割引利息を支払つたと主張するが、これに沿う証拠は前掲証人大山梅雄の証言並びに前掲甲第六、第七号証の各一、二、第八号証の一ないし三、第九、第一〇号証の各一、二中のその旨の記載以外にはないところ、右各証拠が採用し難いものであることは、右3、4で詳しく判示したとおりであり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

7  以上によれば、本件支払利息は原告の本件各事業年度の損金と認めることはできず、これを否認した被告主張の支払利息否認額及び右否認額を前提とする被告主張の未納事業税認容額、受取配当金の益金不算入額の認容額、繰越欠損金当期控除超過額はいずれも正当であり、したがつて、本件各処分は実体的に適法であるということができる。

三  本件各処分の手続適法性について

原告の反論2の事実のうち、被告が本件各更正の更正通知書に、更正の理由として、本件各手形割引利息は「支払先が明らかでないので損金とは認められません。」と附記した事実は当事者間に争いがない。

そこで、本件各処分の手続的瑕疵の有無についての原告の主張を検討するのに、右争いのない本件更正通知書に理由として附記された文言と本件訴訟における被告の主張とを対比してみると、前者と後者とが文言的に同一であると解されるか否かはさておき、前者も後者も、いずれも原告が申告した本件各手形割引利息が原告の所得算定において同趣旨であることは明らかであり、かかる意味において同趣旨であると解される限り、原告の不服申立て、提訴等の防禦活動に特段の不利益を及ぼすものではなく、本件各処分の取消原因たる手続的瑕疵に当たるということはできない。

また、右の意味で同趣旨であると解される限り、本件更正通知書の附記理由に表示と真意の不一致があるといえないことも明らかである。

してみると、本件各処分は手続的にも適法になされたものと認めることができる。

四  結論

以上によれば、本件各処分は実体的にも手続的にも適法なものと認められ、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉戒修一 裁判長裁判官小川正澄は転補のため、裁判官池田直樹は転官のため、いずれも署名捺印することができない。裁判官 吉戒修一)

別表一 確定申告目録

〈省略〉

別表二 更正及び決定目録

〈省略〉

別表三

手形割引利息目録

(一) 昭和四九年一月期分

〈省略〉

(二) 昭和四九年七月期分

〈省略〉

(三) 昭和五〇年一月期分

〈省略〉

〈省略〉

(四) 昭和五〇年七月期分

〈省略〉

〈省略〉

(五) 昭和五一年一月期分

〈省略〉

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